ここでは、日本で生産される様々な種類の塩を選定した。国による塩専売制度(1905年~1997年)の終焉後、国内のいくつかの地域では、地域固有の伝統的な製法を重視しながら、独自の塩生産を再開・発展させることができた。例えば、入浜塩が今もなお受け継がれている瀬戸内海地方や、和歌山県、千葉県などでは、それぞれの水質を活かした特産塩の生産や、伝統的な製法の活用が模索され始めた。こうした動きは、何世紀にもわたる製法の保存だけでなく、それぞれの塩の品質と独自性を重視する小規模な家族経営の生産者の出現を促し、大企業に代わる選択肢を提供するとともに、地域の文化的・経済的多様性を強化することにもつながった。
キュレーターによる選定は、白色系の塩類と、それぞれの地域におけるそれらの重要性に基づいた。
満月の塩 ― 福塩
原材料: 海水
生産地:沖縄県宮古島
制塩者:福塩製塩所、福原元栄
日本最南端の沖縄県では、職人による塩の生産は江戸時代(1603年~1868年)以降に拡大し始め、ミネラル豊富な独特の塩が生み出された。今日に至るまで、この地域は、繊細な味わいと文化的な手法を保つ伝統的な製法で知られており、そのため、地元の塩は日本全国で高く評価されるようになった。
この塩は沖縄県宮古島で生産されている。満月の日に、その月で最も潮位が高くなる間だけの海水から抽出される。その海水は、浅い大釜で薪の火にかけてゆっくりと煮詰められる。
非常にきめ細やかな粉末状で、ナトリウムのほか、マグネシウム、カリウム、カルシウムなど多くのミネラルを含んでいる。その味は、非常にバランスが良い。
自凝雫塩(おのころしずくしお)
原材料: 海水
生産地:兵庫県淡路島
制塩者:脱サラファクトリー
瀬戸内海に面する兵庫県は、太陽熱蒸発や塩水濃縮といった伝統的な製塩技術に遡る長い歴史を誇る。例えば赤穂市などは、海に近い立地と比較的乾燥した気候を活かし、独自の製塩方法を開発して高品質の塩を生産している。兵庫県は、長年にわたり職人技と工業的実践を融合させ、日本有数の製塩地へと発展を遂げた。
自凝雫塩は、淡路島の海水から作られたフレーク状の海塩である。製造工程では、海水を薪で加熱した鉄製の釜で約40時間かけて低温で煮沸し、その後、杉の樽で熟成させる。
結晶化の過程でゆっくりと形成される、より大きく、よりきめ細かく、より繊細な結晶のみが選別される。口当たりは滑らかで、甘味、苦味、そして繊細さが特徴である。
坊津の華
原材料: 海水
生産地:鹿児島県南さつま
制塩者:坊津の華
九州の鹿児島県は、太平洋と薩摩海に面した海岸線を中心に、古くから塩作りの伝統を誇り、太陽熱蒸発と塩水濃縮による塩生産のために強い潮の流れ、絶え間ない風、そしてミネラル豊富な海水を活用している。江戸時代(1603年~1868年)には、沿岸部の小さなコミュニティは、伝統的な手法で塩を生産し、結晶化のための浅い釜や、味わいとミネラル分を高めるための海藻の利用といった技術を代々受け継いできた。20世紀に入ると、工業化によってこれらの塩作りの一部は規模を縮小したが、鹿児島県では、料理や儀式において重宝される、独自の味わいと海との文化的つながりを守り続ける伝統的な製塩技術が今もなお受け継がれている。
坊津の華は、鹿児島県で伝統的な製法で作られる天然の海塩である。太陽熱と風によって海水が部分的に蒸発した後、浅い大釜に入れ、濃縮された海水を少しずつ補充しながら、薪をくべて弱火で7~8日間煮詰める。最後に、塩を取り出して乾燥させ、手作業で包装される。
周囲の山々やサンゴ礁の海水から豊富なミネラルを含んだこの製法では、比較的大きく、その名が示すように花のような結晶ができ、ほのかなうま味が特徴である。
太陽と風がつくる、豊島の海を丸ごととじ込めた塩
原材料: 海水
生産地:香川県豊島
制塩者:てしま天日塩ファーム
四国北部に位置し、瀬戸内海に面している香川県は、古くから塩作りの伝統が根付いている。江戸時代(1603年~1868年)以来、豊島や直島といった島嶼部や沿岸部の住民は、ミネラル豊富な水と日照に恵まれた気候を活かし、太陽熱蒸発などの職人技を用いてきた。20世紀に国による塩の専売制度が始まってからも、小規模な手作業による製塩は継続され、伝統的な製法が保存されてきた。
「太陽と風がつくる、豊島の海を丸ごととじ込めた塩」は、火を使わずに作られる塩であることが特徴である。冬に作られ、完成までに約2ヶ月かかる。この季節の気温と湿度の影響で結晶化がゆっくりと進み、その結果、きめ細かく繊細な粒が出来上がる。
独特の味わいをもつ:濃厚な味わいの後、ほのかな甘みが口の中に長く残る。
なずなの塩
原材料: 海水
生産地:大分県佐伯
制塩者:株式会社なずなの塩製塩所
大分県の塩生産は、豊後海峡(豊後水道)の水質の清浄さによって特徴づけられ、特に沿岸部の町である佐伯市では、大釜で塩を煮詰める伝統的な製法の復活に力が注がれている。
なずなの塩は、海と山が近い地域で採れるミネラル豊富な海水から作られる粗塩の一種である。海水を天日干しして濃縮した後、鉄釜で薪火にかけて約2日間煮詰め、その後、この過程で生じる塩化マグネシウムであるにがりを取り除くために熟成させるという伝統的な製法を用いる。
穏やかなうま味と豊かなミネラル感が特徴の味わいをもつ。
雲仙の温泉塩
原材料: 地下塩水
生産地:雲仙市小浜温泉
制塩者:雲仙エコロ塩株式会社
雲仙には、高温で知られる小浜温泉がある。飲用にも適したこの温泉水は、薪などの燃料を使わず、源泉の自然な熱だけを利用して湯煎で蒸発させており、二酸化炭素排出量の削減に貢献している。急激な加熱を避ける製法により、その塩粒はきめ細かく滑らかである。
その主な特徴は、カリウム含有量が高いことに加え、マグネシウムとカルシウムも豊富に含まれていることであり、その結果、マイルドな味わいとほのかな甘みを生み出している。