キュレーターのテキスト

木の命を汲む人

棟梁の技と心

 

日本では古代から、王権や国家の成立、経済社会の発展に伴い、日常生活から宗教活動に到るさまざまな諸職人が存在した。そして、人々はいつも自然の恵みに感謝し、数多の神を崇拝してきたのである。

木の匠である大工と杣人は、山の神の許しを請うて材料を得る。木は人と同じく性格はさまざまで、生育環境を知ることが欠かせない。唯、良材を求めるのではない。適材適所を見抜くのである。

名工西岡常一の言葉に学ぼう。

 

木を買わず、山を買え

一つの山の木をもって一つのお堂をつくれ。

木曽の木、吉野の木、四国の木をまぜずに、木を自然のままに用いよ。

木の癖を見抜け。右にまがり左にまがり。

互いに押し合いするように組むべし。

 

適材適所

山の中腹以上で育った木は構造材に、建物の柱や梁に使え。

谷ですくすくと育った木は造作材に、長押や連子、建具などに使え。

適した場所に用いれば長持ちする。

 

木は再生可能な資源である。しかし、木の生育期間と建物の耐用年数が同じでなければならない。千年の木を使うなら、千年以上長持ちする建物を造る責任を負う覚悟が求められるのである。

そのために大工が選んだ木が檜であった。樹齢数千年にもおよぶ針葉樹の檜と杉は、成長が早く、まっすぐに育ち、加工しやすい軟らかさと耐久性をもそなえていた。中緯度帯に属する島国日本の特異な生態系が生み出した類稀な資源である。

その技を支えてきたのが世界最高の切れ味を具えた大工道具である。鉄資源の乏しい日本において、十分な鉄製工具を揃えることは容易ではなかった。製材鋸の導入も他国より遅かった。限られた道具を屈指し、釘やボルトに頼らない接続法である木組の技が生まれた。

日本の木工技術の特徴は伝統的な精密さにあるといわれることが多い。しかし、その背景には日本人独特の自然に対する畏敬の念と環境が培ってきた職人の技と心がある。人にとっての地球環境を考え直さなくてはならなくなった今日、そこに歴史を超えた叡智を見出すことが出来るであろう。

本展ではこれまで日本の社寺建築を支え続けてきた「堂宮大工」、代表的な日本建築スタイルである「数寄屋建築」について分かりやすく解説を加えながら、これまで知られることの少なかった「日本の木造建築」の世界を展開する。一見しただけでは難しい匠の技と心の真意を理解して頂けるであろう。

 

竹中大工道具館

キュレーター 西山マルセーロ